Rental Honeymoon 4


次の朝、たしぎが目覚めると、部屋は既に明るく
カーテンの隙間から、眩しい陽の光が差し込んでいた。

いけない!寝過ごした。

バタバタと時雨を掴み、寝たときのままの格好で、
寝室を飛び出す。

居間には、ゾロの姿は見えなかった。


「おう、起きたか。」

部屋を出ると、ちょうどバスルームから出てきたゾロと 鉢合わせした。

髪を拭きながら、カラフルな楊柳生地の半ズボンを履いている。

ずいぶんリラックスしてる様だが、玄関には、昨日侵入者から
取り上げた武器の他に、刀が数本増えていた。

私が寝ている間に、敵が襲ってきたんだ。
気づかなかったなんて・・・


ゾロが冷蔵庫から牛乳を取りだして紙パックから
そのまま飲んでいるのが見えた。

「ロロノア、何か食べました?」

「いや。」

時計を見れば、9時近い。

「すぐ、何か作ります!」
慌てて、キッチンに入ろうとすると、塞ぐようにゾロが立ちふさがる。

「そんな、腹減ってねぇから、まずシャワーでも浴びてきたらどうだ?」

あ。
寝起きの姿のままだったことに気づく。

髪はボサボサ、服はそのまま寝たのでヨレヨレだ。
目だって腫れぼったい。

「は、はい・・・そうですね。」
うつむき加減に、パタパタとバスルームに飛び込んだ。

熱いお湯を出して、頭から浴びると身体が目覚めた。

昼間は、私が起きて、襲ってくる相手を片づける番ですね。

柑橘系のボディーソープと洗い上がりが滑らかなシャンプーを
たっぷり使い、バスルームから出る頃には、悔しさも紛れていた。



洗い髪のまま、キッチンに立つたしぎの後ろ姿を
ゾロは、ただ見つめていた。


なんで、こいつが此処にいるんだろう・・・
目の前で、メシを作ってやがる。

湧き上るむずがゆいような感覚を、どう考えればいいのか
ゾロは、わからなかった。


たしぎが作った朝食をキレイに平らげると、
「ごちそうさん。」と席を立つ。

すぐに、「じゃあ、寝る。」と言うと寝室に入っていった。



結構、お腹空いてたんだ。

ロロノアの食べっぷりを思い出して笑う。
後片付けが終わる頃、ようやく気づく。

待っててくれたんだ。
昨日、勝手に食べるなって言ったから・・・

夜は、美味しいもの作ろう。

たしぎは、レシピノートをめくった。


*****


部屋を掃除し、洗濯をした。
ゆっくりとした時間が過ぎる。

慌ただしい軍の日常とは、かけ離れたこの別荘での暮らし。
これを、幸せと人は言うのだろう。
たしぎは、少しだけ浸っていたいと思った。


しかし、自分一人の昼食を終えると、
午後にはもう、何もすることがなくなってしまった。


途中、チラリと覗いた寝室では、ゾロがイビキをかいて眠っていた。


キッチンのテーブルの頬杖をつきながら
今夜の夕食のメニューを検討する。
温かい紅茶が美味しい。


緊張が続いたこの二日間。
たしぎはいつの間にか、テーブルに突っ伏し、眠ってしまった。



******


「動くな。」
後ろから、身体を押さえられ、口を塞がれる。

低い男の声。
数人の気配がする。
ガタッ。
椅子から立たせられると、腕を後ろに廻されたまま、
首筋に冷たいものが触れた。

「旦那はどこにいる。声は出すな。」

側に置いた時雨は見当たらない。


たしぎは、ゆっくりと、洗面所の方向に顔を向ける。
「向こうだな。」

一人の男が先に洗面所に向かう。
声の男と、押さえている男、足音でもう一人居るのが解った。


とにかく、ロロノアの居る寝室から遠ざけなければ。

先に行った男がドアから顔を出す。
「いませんぜ。」

たしぎを押さえている男の足が止まる。
「おい、嘘つくと承知しねぇぞ。」
リーダーらしき男が、たしぎの前に立った。


「承知しねぇのは、こっちだ。」
後ろからゾロの声がして、前に立つ男の顔が恐怖にひきつるのが見えた。

ふっと、身体が軽くなり、押さえていた男が足元にドサッと倒れた。
同時に、目の前の男が呻いたかと思うと、身体を丸めてうずくまる。

「とっとと、こいつら連れて出てきやがれ。」
先に洗面所へ行った男に向かって言い放つ。

ゾロの剣幕に、恐れおののきながら、男は、仲間を引き摺り逃げていった。
たしぎに刀を向けていた男が、一番、容赦なくやられていたようだ。


「あ、ありがとうございます。」
掴まれていた腕をさすりながら、バツが悪そうにたしぎが礼を述べる。


「なんで、離れようとすんだよ!」
ゾロの声は、怒りを含んでいた。
「素直に、寝てるとこ連れてくれば、すぐカタついただろっ!」

「・・・・」
たしぎが顔を上げる。

黒い瞳が真っ直ぐにゾロを捕らえる。


「わたしだって、あなたを守りたいんですっ!」




たしぎの瞳に、ゾロは動けなかった。

ゾロが手にした時雨を受け取るとき、たしぎの指が手に触れた。

ガタッ。

ゾロは、後ずさるとドアに背中をぶつけた。

何も言えずにたしぎを見つめる。


うめくように、「夜まで、もうひと眠りしてくる。」と言うと
返事も聞かずに、寝室へと戻っていった。



〈続〉